コトリンゴによる『birdcore!』全曲解説

「種まき」
外国ではまだ健在だったりする、100年ほど前のカルーセルの、中心にある柱の中から聴こえてくる自動演奏の仕掛けを施された生楽器の、大太鼓や小太鼓、トランペットにオルガン。日本でもオルゴール館などにある自動演奏の巨大なオルゴール。この曲のサウンドはそんな感じにしたくて作りました。歌詞は少し奇妙かな?と思ったのですが、種をまいて人になる、もう会えなくなった人の種があってそれを蒔いたら育って歩き出して、って想像したら少し面白いなと思って作りました。

「terrarium」
前向きなイメージを持った曲を作りたくて、「生きていると色んな変化があるけれど、準備は良いかな?」というキーワードから書き始めました。terrariumと言うのは、ガラス製の飼育ケースの事。見た目もとても好きです。
そのうちどんどん季節も春らしくなってきて、曲にも春の気配も混じりつつ、書き上がりました。この曲はトイ楽器演奏家の良原リエさんにも参加していただいてます。良原さんの演奏姿は、音楽への愛と小さくても個性豊かな楽器たちへの愛がなんだかひしひしと伝わって、とても素敵です。

「ツバメ号」
自転車に、のれたらいいなと想像して書いた曲です。

「誰か私を」
ドラマ「明日、ママがいない」の為に、野島伸司さんの歌詞をいただき曲を作りました。
シンプルなのにぐさりと鋭い野島伸司さんの歌詞は、こころの奥にしまって見ないようにしていた、言いたくても言えなかった思いをはっきりと言葉にされた気がして、怖くなったりするのですが、でも聞き終わった後は傷が癒えたような気にもなっている、儚そうで力強い、とてもすごい歌詞です。ああでもない、こうでもないと試行錯誤して作ったので、いつもの私の曲とはまた違う気がして、今聴き返すと自分でもとても新鮮です。ぜひqotori filmさんに作っていただいた MVと一緒に、聴いてみてください。

「白い鳥」
色んな角度で考えられたら良いなと思いながら書いた曲です。ギターにビューティフル・ハミングバードの田畑伸明さんをお招きしました。貴重なエレキギターでの演奏なのです!そして、エレキベースのシゲさんの歌心あるベースにも注目!

「読み合うふたり」
いらぬ気遣いやヘタな気遣いを使いすぎてくたびれてしまう事と、
そういうふたりが一緒に出かけたら、を想像して作りました。
太鼓のリズムと、チャイナっぽいメロディを合わせたくて、でも録音の時には雨の下北沢のイメージです、とお伝えしていました。そして、ストリングスは「ツバメ・ノヴェレッテ」の中の「let me awake」の後半で作ったストリングスの感じがとても好きで、それをもとに作っています。

「絵描きと雲雀」
夏目漱石の「草枕」をきっかけに出来た曲です。ウッドベースにwater water camelの須藤剛志さん、ドラムに「誰か私を」でもたたいていただいた鈴木郁さんにお願いしました。須藤さんの音色やソロも、そして鈴木さんのバウンスしているのにどこか侘び寂び感のあるドラムもとても好きなのです。

「ballooning」
曲はずっと出来ていたのですが、歌詞や歌をどうあわせようか悩んでいました。ヘッドフォンをしながら歌詞ノートを持って床にぼんやり座っていたら、目の前に天井から蜘蛛がつーっと降りてきて、きっと何かのアピールだと蜘蛛の歌にしました。バルーニングというのは、生まれたての蜘蛛が糸を空中になびかせてそれで風をキャッチして遠くに飛んでゆく行為のことです。神谷さんのアイディア満載のスーパープレイも飛び出しています!

「o by the by」
AOKI takamasaさんにリズムトラックを作っていただき、そこから曲を作っていって出来た曲です。歌詞にE.E.Cummingsの好きな詩を使いました。AOKI takamasaさんはツジコ・ノリコさんとの共作をずっと聴いていてとても大好きで、実際にお会いしてみると面白くて、まずます好きになりました。また何か一緒に出来たら良いなと思っています。

「あたま、こころ」
振り付け師のMIKIKOさんにご依頼いただいて、MIKIKOさん率いるelevenplayのダンスインスタレーション「MOSAIC」の為に書きました。このショーのテーマ、自己やこころを形作るいろいろな要素のモザイク、からスタートして歌詞は作っていきました。
様々な技術を駆使して作られた「MOSAIC」は、視覚的にも音楽的にも、もう未来の世界の様で、私は圧倒されっぱなしでした。その中で生身の人間がからだを使って表現するダンスと、ダンサーの皆さんの纏っていたふんわり素敵な衣装は見ていると暖かくも儚げにも感じられて、とても不思議な気持ちにもなりました。とても貴重な経験でした!

「moon's a balloon」
長くないシンプルなピアノの曲を一曲作りたくて、「種まき」のメロディをからめながら作りました。出来上がった後で、タイトルを何にするか迷いながらCummingsの詩集の本をえいとめくると、なんだかとてもしっくりくる素敵な詩だったのでそこからタイトルを付けました。